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ASD社員の入社前準備

はじめに

ASD(自閉スペクトラム症)の方を障害者雇用として新規受け入れする際、事前に発生し得るエラーをシミュレーションすることは非常に重要です。ASDの特性に合わせた業務設計や職場環境の調整を行うことで、スムーズな適応を促し、長期的な定着につなげることができます。



シミュレーションを行うべき理由


ASDの方には、以下のような特性が見られることが多く、業務や職場の人間関係に影響を与える可能性があります。

発生しやすいエラーの例
 1. 曖昧な指示の解釈が難しい → 「臨機応変な対応」が苦手で、マニュアル外の状況に対応できない。
 2. 暗黙のルールを理解しにくい → 他の社員とのコミュニケーションで摩擦が生じる。
 3. 感覚過敏やこだわりの強さ → 環境要因(騒音、光、温度)がストレスとなり、パフォーマンスに影響を与える。
 4. 興味のあることに集中しすぎる → 優先順位をつけるのが難しく、業務全体の進行に支障が出る。

事前にエラーをシミュレーションし、業務設計や環境調整を行うことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。



適切なシミュレーション方法と事例

 
1. 業務フローの見直しとエラーチェック

方法:
 • 想定される業務を細かく分解し、どの工程でつまずきやすいかを確認。
 • ASDの特性に基づき、「曖昧な表現」や「突発的な対応」が求められる部分を特定。
 • 実際に他の社員が業務シミュレーションを行い、問題点を洗い出す。

事例:
事務職に採用予定のASDの方が、受発注データの処理を担当すると仮定。
➡ 想定されるエラー:
 • 「急ぎで対応して」と指示されても、どの程度急ぐべきかわからず、対応が遅れる。
 • マニュアル通りの処理はできるが、例外的なケースに対応できない。

➡ 対策:
 • 緊急度を数値化(例:「★1=通常対応、★3=最優先」)し、対応基準を明確化。
 • 例外処理が発生する可能性のあるケースを事前にリストアップし、対応マニュアルを作成。



2. コミュニケーションのズレを想定したロールプレイ

方法:
 • 上司や同僚が指示を出し、それに対する受け取り方をテスト。
 • 誤解が生じた場合、どのように補足説明すれば理解しやすいかを検証。
 • ASDの方が困ったときにどう対処すればいいか、相談ルートを決める。

事例:
ASDの方が営業アシスタントとして勤務し、上司から「A社に、納期が遅れることを伝えておいて」と指示を受けた。
➡ 想定されるエラー:
 • 言葉をそのまま受け取り、機械的に「納期が遅れます」とだけ伝えてしまい、フォローをしない。
 • 「どのように伝えるべきか?」という意識がなく、顧客対応でトラブルが発生。

➡ 対策:
 • 指示を具体化し、「A社のBさんに、〇日の納品が△日に遅れることを説明し、了承を得てください」と伝える。
 • 顧客対応の例文テンプレートを用意し、「こう伝えれば問題が少なくなる」という基準を明確化。



3. チーム全体での受け入れ準備

方法:
 • ASDの特性を職場の関係者に共有し、理解を促す。
 • 具体的な配慮事項(「急な予定変更が苦手」「曖昧な指示は困る」など)を周知。
 • ASDの方が相談しやすい環境を整える。

事例:
過去にASDの社員が入社した際、「必要なことしか話さない」「業務以外の雑談をしない」ため、チーム内で距離感が生じた。
➡ 想定されるエラー:
 • 周囲が「冷たい」「協調性がない」と誤解し、不満が募る。
 • ASDの方が孤立し、ストレスを感じて退職につながる。

➡ 対策:
 • 事前に「本人は悪気なく必要最低限の会話しかしない」ことをチームに説明。
 • 雑談やチーム活動への参加を無理強いせず、仕事上の報連相ができれば問題ないと認識を共有。



4. 環境調整のテスト運用

方法:
 • 実際の勤務環境をシミュレーションし、ストレス要因を減らせるか確認。
 • 感覚過敏やこだわりに対応するための環境調整を試験的に行う。

事例:
ASDの方がオフィス勤務を始めたが、「蛍光灯の光が強すぎて頭痛がする」「周囲の雑音が気になって集中できない」と訴えた。
➡ 想定されるエラー:
 • 環境が合わず、業務に集中できなくなる。
 • 体調不良が続き、最終的に退職を検討する。

➡ 対策:
 • デスクの位置を変更し、光が直接当たらない場所を確保。
 • イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可。
 • リモートワークやフレックスタイムを導入し、働きやすい環境を整える。



まとめ


ASDの方を新規雇用する際は、以下の4つのシミュレーションを行うことが重要です。
 1. 業務フローの見直し → マニュアル化やルールの明確化でミスを防ぐ。
 2. コミュニケーションのズレを検証 → 指示を具体化し、誤解を防ぐ。
 3. チームの受け入れ準備 → ASDの特性を共有し、職場の理解を深める。
 4. 環境調整のテスト運用 → 感覚過敏やこだわりに配慮した環境を用意する。

事前にシミュレーションを行い、適切な準備をすることで、ASDの方が安心して働ける職場環境を作ることができます。