ADHDが過度に委縮してしまう理由

はじめに

ADHDの人が目上の人に対して萎縮し、言いたいことを言えなかったり、本意でない返事をしてしまうのには、いくつかの理由が考えられます。

1. ワーキングメモリの負荷が高くなりすぎる

ADHDの人はワーキングメモリ（短期的に情報を保持しながら処理する力）が弱いことが多いです。
 • 目上の人との会話では、「失礼にならないか？」「正しい言葉を選べているか？」「相手はどう思っているか？」など、同時に考えることが多くなり、処理能力が追いつかなくなる。
 • 結果として、「とりあえず無難な返事をしよう」「波風を立てないようにしよう」といった反応になりがち。

2. 即興で適切な言葉を選ぶのが苦手

ADHDの人は、衝動性が強い一方で、場面に応じた適切な言葉を瞬時に選ぶのが苦手なことがあります。
 • 「こう言いたい」という気持ちはあるものの、それを整理して口に出す前に焦ってしまい、適当に相槌を打ってしまう。
 • 「NOと言うとまずいかも」と直感的に判断し、つい賛成してしまう。

3. 場の空気を読みすぎる（過剰な適応）

ADHDの人は、社会的なルールや相手の反応に過敏になりやすいことがあります。
 • 「自分の発言が場の雰囲気を壊さないか？」と不安になり、無難な対応をしようとする。
 • 「とりあえず相手に合わせたほうが楽」と判断してしまう。

これは「マスキング」とも言われ、特に失敗経験が多い人ほど、無意識に自分を抑えてしまうことがよくあります。

4. 過去の失敗や怒られた経験の影響

ADHDの人は、失敗や注意された経験を強く記憶し、回避行動をとりやすいです。
 • 以前に目上の人に意見して怒られた、否定されたという経験があると、「また怒られるかも」と無意識に萎縮する。
 • 「間違えたらダメだ」と思うあまり、自分の意見を言わずに相手に合わせてしまう。

特に、日本の職場文化では上下関係を強く意識する場面が多いため、プレッシャーを感じやすいかもしれません。

5. ノルアドレナリンの影響でストレスに弱い

ADHDの人は、ノルアドレナリン（ストレスに関与する神経伝達物質）の調整がうまくいかないため、緊張しやすく、プレッシャーがかかる場面でうまく対応できないことがあります。
 • 「ちゃんとしなきゃ」と思うほどパニックになり、考える余裕がなくなる。
 • 結果として、咄嗟に出た言葉が本意でない返事になってしまう。

対策としてできること

 1. 事前に伝えたいことを整理しておく
 • 目上の人と話す前に、伝えたい内容をメモしておくと焦りにくい。
 • 「こう聞かれたらこう答える」とシミュレーションしておく。
 2. 「少し考えさせてください」と言う習慣をつける
 • 咄嗟に答えず、「一度持ち帰って考えてもいいですか？」と伝えることで、冷静に対応しやすくなる。
 3. YES/NOをはっきりさせる練習をする
 • 普段から、「本当はどう思っているのか？」を意識し、小さな場面で少しずつ意見を言う練習をする。
 4. 「とりあえず相槌を打つ」クセに気をつける
 • 無意識に「はい」と言ってしまうことが多い場合、「すぐに返事をしない」ことを意識する。
 • 代わりに「なるほどですね」「それはどういう意味ですか？」など、時間を稼げる返答を使う。

このように、ADHDの脳の特性を理解しながら、徐々に対応を工夫していくと、目上の人ともストレスなくやりとりできるようになるかもしれません。