発達障害の方を介護職で雇用する際に、WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)の検査結果を評価することで、その方の強みや弱点を理解し、職務にどのように活かせるかを把握することができます。介護職では、患者や利用者とのコミュニケーションや身体的な支援、状況判断が求められるため、WAISの各指標(言語理解、知覚推理、作業記憶、処理速度)がどのように影響するかを分析することが重要です。
以下は、WAISの各指標を基に、発達障害を持つ方の介護職における能力や苦手な点を評価する方法です。
WAISは4つの主要領域で能力を測定します。それぞれのスコアが介護職にどう関連するかを見ていきます。
言語理解(VCI: Verbal Comprehension Index)
• 評価方法: 言語理解能力は、語彙力や文脈を理解する力、他者との会話における応答能力を測定します。介護職では、利用者とのコミュニケーション、指示に従う能力、家族との連絡などに関わります。
• 高得点: 利用者との会話や指示を理解し、的確に対応することができ、言葉での説明や伝達が得意。介護業務の中での安心感を提供しやすい。
• 低得点: 言語的な指示や説明を理解するのが難しい場合があり、詳細な指示が必要になる可能性があります。非言語的なコミュニケーションや視覚的サポートが役立つ場合があります。
知覚推理(PRI: Perceptual Reasoning Index)
• 評価方法: 知覚推理は、視覚的な情報処理能力や問題解決能力を測定します。介護職では、環境を把握し、急な状況に柔軟に対応する力、身体的な支援が必要な場面で役立ちます。
• 高得点: 利用者の動きや環境を迅速に察知し、適切な支援をすることができる。例えば、物の配置や利用者の行動パターンを早く理解し、安全を確保することが得意。
• 低得点: 視覚的な情報処理に時間がかかることがあり、急な環境の変化や複雑な状況への対応に難しさが生じる可能性があります。サポートを受けながら行動を調整する必要があるかもしれません。
作業記憶(WMI: Working Memory Index)
• 評価方法: 作業記憶は、短期的な情報保持や集中力、複数の情報を同時に処理する能力を測定します。介護職では、複数の利用者の状況を把握しながらケアを行う能力や、緊急時に迅速に行動する力が求められます。
• 高得点: 複数の利用者の状態やケア計画を一度に覚え、適切なタイミングで対応できる。例えば、薬の管理や食事の準備、生活支援を効率的にこなせる。
• 低得点: 複数のタスクを同時にこなすことが難しく、タスクを一つ一つ確認しながら行動する必要があるかもしれません。リストやメモを活用することで作業効率を向上させることが可能です。
処理速度(PSI: Processing Speed Index)
• 評価方法: 処理速度は、視覚的な情報を迅速かつ正確に処理する能力を測定します。介護職では、日常的な作業を効率的にこなす能力や、緊急時に素早く対応する能力が求められます。
• 高得点: 迅速に作業をこなすことができ、スムーズな日常業務や急な介助が必要な場面でも対応が早い。身体的な支援や物品の準備、状況に応じた適切な判断ができる。
• 低得点: 作業を急いで行うのが難しい場合があり、時間がかかることがあります。特に緊急時や迅速な判断を求められる場面での対応に時間がかかるかもしれません。繰り返しの作業や一定のペースで進む業務が向いている可能性があります。
WAISの各指標は、スコアが100を平均として、標準偏差15で評価されます。介護職では、一定のスキルやコミュニケーション能力が求められるため、各指標がどのように影響するかを理解することが大切です。
• 85〜115(標準的な範囲)
一般的な業務には十分適応可能。利用者とのコミュニケーション、複数の業務を効率よくこなすことができ、柔軟な対応が可能です。
• 70〜84(やや低い能力範囲)
他のスタッフとの協力が必要な場合がある。指示を反復して確認する必要がある場合や、記憶や処理速度にサポートが必要になることがあります。安定した環境での仕事が向いているかもしれません。
• 69以下(顕著に低い能力範囲)
自立して複数の業務をこなすのが難しい場合があります。繰り返しの作業や単純作業が適しており、手順を守ることができる業務でサポートを受けながら働くことが有効です。
• 強みを活かす方法: 言語理解や知覚推理が得意な場合、利用者とのコミュニケーションや状況判断、体調の把握などで強みを発揮できます。高い処理速度を持つ場合は、迅速に業務を進めることができ、忙しい時間帯でも効率よくケアを提供できます。
• 弱みをサポートする方法: 作業記憶や処理速度が低い場合は、タスクの優先順位をつけて簡潔に伝え、リストやメモを使って業務の進行を支援することが重要です。また、複雑な状況ではサポートを受けながら作業を進めることが助けになります。
介護職では、直接的な身体的な支援が求められる場合や、利用者との対話が中心となる場面があります。以下のような職務が適している場合があります:
• 日常的な介護業務(入浴介助、食事介助など)
安定した作業が求められるため、記憶や処理速度が安定している方が適している可能性があります。
• 患者・利用者とのコミュニケーションやカウンセリング業務
言語理解が高い場合、利用者との信頼関係を築くための対話が得意です。
• 衛生管理や環境整理
視覚的な情報処理に強い場合、部屋の整理整頓や物品の配置などで役立ちます。
介護職での雇用においては、WAISの検査結果をもとに、その方が得意とする部分を活かすことで、効果的な支援が可能になります。また、職場でのサポート体制を強化することで、発達障害を持つ方が職務を全うできる環境を整えることができます。