ADHDの人が仕事の優先順位をつけられず、苦手なことを先延ばしにして好きなことに集中してしまうのは、ADHD特有の脳の働き方や心理的要因が関係しています。この原因と、会社側ができる適切な指導法を以下に詳しく解説します。
ADHDでは、脳の前頭前皮質の働きが影響し、実行機能(目標を立て、計画し、それに従って行動する能力)が弱くなることがあります。その結果:
• 物事を論理的に整理し、どれを先にすべきか判断するのが難しい。
• 大きな目標に対して、具体的なステップを分解できずに手をつけられない。
(2) 苦手なタスクへの回避行動
苦手なことや分からないことに対しては、心理的ストレスが強くなり、脳がその不快感を避けようとします。この回避行動が、好きなことや簡単にできることに取り組む形で現れることがあります。
ADHDの人は、報酬系の神経回路が敏感で、「興味を引くもの」や「すぐに達成感が得られるもの」に強く引き寄せられる傾向があります。逆に、長期的な利益や抽象的な目標にはモチベーションを感じにくいです。
時間の感覚が歪みやすく、目の前のタスクが差し迫った期限や重要性を持つかどうかを把握するのが難しい場合があります。
ADHDの特性を考慮し、会社側がタスクの優先順位を視覚的に提示するのが効果的です。
• 方法例:
• タスク一覧表を作り、優先順位を明確にラベル付け(「最優先」「今日中」「今週中」など)。
• 進行状況を見える化するツール(TrelloやAsanaなど)を活用し、「次に何をすべきか」を視覚的に示す。
• 事例:
• Aさんは、メール対応や書類作成などの期限付きタスクを後回しにしがちでした。上司がタスクを「緊急」「重要」「後回し可」の3カテゴリに分類したリストを作成し、Aさんと毎朝一緒に確認するようにした結果、取り組むべきタスクが明確になり、ミスや遅延が減りました。
大きなタスクや苦手なタスクを小さなステップに分解することで、取り掛かりやすくします。
• 方法例:
• タスクを細かく分け、1ステップずつ進めるように指導。
• 「1つのステップが終わったら休憩を取る」など、達成感を感じやすくする。
• 事例:
• Bさんは、報告書作成が苦手で、手をつけるのを先延ばしにしていました。上司が報告書の作業を「データ集め」「構成作り」「文章を書く」の3ステップに分け、それぞれ期限を設定したところ、Bさんは取り組みやすくなり、遅延が解消されました。
タスクに対する興味やモチベーションを高める工夫をします。
• 方法例:
• 「この仕事が最終的にどう役立つか」を本人に説明して意識を変える。
• 苦手な仕事に報酬やポジティブなフィードバックを組み合わせる。
• 事例:
• Cさんは、ルーチンワークに飽きやすく、集中力が持続しませんでした。チームで達成目標を設け、成功した際に小さな達成報酬(ランチ会や上司からの表彰)を設定したところ、Cさんのモチベーションが上がり、仕事への取り組みが改善しました。
本人が進捗状況を報告する場を設けることで、方向性がズレるのを防ぎます。
• 方法例:
• 毎朝や週1回のミーティングで、優先順位の確認や進捗の共有を行う。
• 本人がタスクの整理を自分でできるようにフィードバックを与える。
• 事例:
• Dさんは、複数のタスクを並行して進めるのが苦手でした。上司が週に1回の進捗確認ミーティングを設け、タスクの状況を話し合う時間を作った結果、Dさんは優先順位を意識して取り組む習慣が身につきました。
苦手なタスクは完全に1人で任せず、相談しやすい環境を作ります。
• 方法例:
• 他の社員やチームメンバーと協力できる仕組みを導入。
• タスクの一部を代行する制度を一時的に用意する。
• 事例:
• Eさんは、数字の処理が苦手で集計業務を後回しにしていました。同僚とペアを組んで作業を分担するようにしたところ、Eさんはスムーズに取り組めるようになり、仕事のストレスも軽減しました。
ADHD社員が正しい優先順位をつけて仕事を進められるようにするには、特性を理解し、視覚化、分割、モチベーション強化、進捗確認といった方法で支援することが効果的です。本人がやる気を持ち、自分で管理できる感覚を養えるよう、環境を整え、フィードバックを行うことが成功の鍵です。